１．須磨多聞線問題の概要　

　本訴訟の対象は、須磨多聞線（天神町から垂水区小束山6丁目に至る全長約7km）の内、西須磨部分の５２０ｍです。
　須磨多聞線の西須磨部分は同線東端部の高架道路で、行幸町から立ち上がり離宮公園前交差点（平面交差）に至る部分をいいます。西須磨部分以外の須磨多聞線はまったくの新設道路ですが、西須磨部分はあくまで天井川左岸線の代替道路として整備が計画されたものです。（位置図参照）
　西須磨の須磨多聞線については、地元住民が「地域の住環境が根底から破壊される」などとして建設に強く反対し、整備を進めようとする神戸市との対立は都市計画決定以来５０年以上に及んでいます。

２　道路問題の経緯　

　神戸市は１９９５年1月１７日の阪神淡路大震災直後の同年３月３１日に、西須磨地区の須磨多聞線（約５２０ｍ）について事業認可を得て整備事業に着手しました。これに反発した地元住民２５１７名（のち申請人の追加により３７４５名）は１９９７年１２月１９日に公害紛争調停（第1次）の申立てを行いました。調停は１５年３ケ月および３９回の期日が開催されましたが、その間神戸市と地元住民が協働して「騒音・振動・大気質現況調査」や「ＰＭ2.5調査」が実施されるなど調停は大きな成果を上げました。
　しかし、調停が膠着状態に陥ったため、２０１３年２月７日に調停員会は「調停終結後も須磨多聞線建設を前提とせず話し合いを行うこと」との内容の「受諾の勧告」を行いました。住民側は「受諾の勧告」を受諾しましたが、神戸市は「須磨多聞線建設を前提としない話合いには応じられない」として拒否したため第1次公害調停は「打切り」となり終結しました。　
　神戸市は、調停が終結した直後の２０１３年４月から「環境影響評価」の準備を始め、同年８月から調査を始めました。その後、地元住民と神戸市の対立は続きましたが、２０１８年３月２９日に久元喜造神戸市長は市議会本会議で突如「測量を実施する」と表明、同年８月に地元住民約７０名が激しく抗議する中、神戸市は測量を強行しました。　
　測量の強行を受けて地元住民４８０９名は２０１８年１２月２５日に第２次公害調停を申し立てましたが、同市長は「調停に応じるつもりはない」として３回の調停期日すべてに欠席しました。
　神戸市は頑なに話合いに応じず、調停期日にも欠席を続ける中、２０２０年３月２５日に桜木町の須磨多聞線歩道部分において、地元住民の強い反対を無視して着工しました。　
　そして２０２０年１１月５日、４８０９名もの地元住民等が法律に基づき話し合いを求めた第２次公害調停は、神戸市が調停に応じず３回の調停期日に一度も出席しないまま「打切り」となり終結しました。
　神戸市の須磨多聞線着工により地元住民有志５７１名は、須磨多聞線を止める最後の手段として２０２０年１２月、神戸市に対し本件住民訴訟を提起したものです。

３　年表